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特集:犬アトピー性皮膚炎1IgE発見への道のり長谷川篤彦(東京大学名誉教授)はじめにいわゆるアレルギー現象は紀元前より知られていたとされているが、科学的に追究されるようになったのは1960年代に入ってからである。すなわち、1966年当時、アメリカ合衆国、メリーランド州のBaltimoreにあるジョンズ・ホプキンス大学(JohnsHopkins University)で研究していた石坂公成・照子夫妻がIgEを発見した。このことから、アレルギー発現の機序を解明する端緒が開かれた。そこで、石坂公成の「免疫とアレルギーのしくみを探る(サイエンティストライブラリー)」を参照し、この画期的発見の経緯を辿ってみたい。1. IgE以前アレルギー現象の発現は古くから認識されていたと考えられる。例えば、紀元前4 ~ 5世紀、Hippocrates(ギリシャの医学者)は喘息や、山羊の乳とチーズを摂取することで起こる病状を記述している。その後も種々の記載があるが、1819年にJohn Bostock(イギリス、1772-1846)が28症例の枯草熱患者について記載しており、この報告がアレルギーに関する最初の記載と考えられている。20世紀に入ると、先ず1902年にCharles RobertRichet(フランス、1850 - 1935)とPaul Portier(フランス、1866-1962)がクラゲ(一般にイソギンチャクとされているが、多田富雄の「免疫の意味論」にはクラゲの1種らしいとある)の毒の研究において、当時想定されていた免疫反応とは異なる現象に遭遇した。すなわち、通常犬に少量のクラゲの毒素を注射すると最初は毒素に対する免疫を誘導し、次に毒性を弱めた毒素を注射しても、犬には抵抗力が出来ているので、軽い症状は現れたとしても間もなく健康に回帰して死亡するようなことはなかった。しかし、こうして免疫を獲得したと思われる犬に、普通の犬では無害なごく少量の弱い毒素を注射したところ、その直後に呼吸困難、下痢、下血が発現し、いわゆるショック状態に陥ってわずか数十分のうちに急死した。このような経験を通して、このショックを起こして急死する現象は従来の免疫の考えには合致しないことから、この犬が毒素に対して著しい過敏状態を呈しているものとして、この現象をanaphylaxis(ana:無、phylaxis:防御)と呼称した。この免疫操作の実験によって免疫と考えていた事実とは逆の現象が発現することを確認したことから、アレルギー解明の道が拓かれた。翌1903年、Nicolas Maurice Arthus(フランス、1862-1945)はウサギの腹部皮下に馬血清を反復注射すると発赤し、さらに潰瘍形成が観察されることを確認し、この現象を皮膚局所の過敏状態と考え報告した。この状態を後の1907年にMaurice Nicolle(フランス、1862?1932)がアナフィラキシー現象と異なることからArthus(アルサス)現象として区別した。他方20世紀の初めには、牛乳に関する問題がドイツの医学誌に現れ、1905年にArthur Schlossman(ドイツ、1867-1932)は牛乳を飲んだ後に発現した急性ショックの症状について報告した。また、同じ1905年にHeinrich Finkelstein(ドイツ→米国、1865-1942)も牛乳を飲んだことで死亡した小児の1例を発表した。ちなみに、彼は経口的減感作を提唱した最初の人とされている。これらの症例は牛乳による即時型アレルギーの報告である。またこの同じ1905年にBela Schick(ハンガリー、1877-1967)は血清に起因する疾病を血清病として発表している。これらのことを踏まえて、1906年にClemens von Pirquet(オーストリア、1874-1929)は、アレルギー(Allergy)と言う概念を提唱した(allos:正常の状態と違ったとか偏ったもの、変じたものの意、ergo:作用、いずれもギリシャ語に由来)。すなわち“異物が生体に一度侵入すると、その物質に対する生体の反応能力が変化する”との2 vol.0